ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)

ACO(Asthma and COPD Overlap:喘息とCOPDのオーバーラップ)について、基礎的な情報を整理しました。疾患の理解にお役立てください。

ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)

ACOは、閉塞性肺疾患の病態の1つであり、日本呼吸器学会の「喘息とCOPDのオーバーラップ (Asthma and COPD Overlap: ACO) 診断と治療の手引き第2版 2023」(以下、「日本のACO手引き」)1)において次のように定義されています。

ACOの定義

慢性の気流閉塞を示し、喘息とCOPDのそれぞれの特徴を併せもつ病態である。

喘息とCOPDは、異なる原因と機序により病態が形成され、気道炎症の病態や気流閉塞の特徴などが異なりますが2)、両者の特徴を持つ場合があることは以前から知られていました3,4)。これまでの喘息やCOPDに関する研究や臨床試験では、これらの疾患を明確に鑑別し、両者が合併する症例を除外することが一般的でしたが、臨床の現場においては、喘息かCOPDかを明確に鑑別することが難しい症例も少なくありません。

このような状況に対応すべく、2015年に喘息とCOPDの国際的な討議委員会であるGINA(Global Initiative for Asthma)とGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)が共同で提唱したのが、ACOの原型となる「喘息・COPDオーバーラップ症候群(ACOS:Asthma and COPD Overlap Syndrome)」です5)

その後の議論で、さまざまな理由から“症候群(Syndrome)”という言葉が不適切と見なされ、「喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO:Asthma and COPD Overlap)」と呼称することが提唱されました3)。これにより、「ACO」という名称が定義され、臨床上少なくない閉塞性肺疾患の病態の1つとして捉えやすくなりました。

  • 日本呼吸器学会喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023作成委員会編, 喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023, 24-25, 日本呼吸器学会, メディカルレビュー社, 2024.
  • Jeffery PK. Proc Am Thorac Soc. 2004; 1(3):176-183. PMID: 16113432
  • Global Initiative for Asthma(GINA), 2017. Global Strategy for Asthma Management and Prevention 2017.
  • Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. GOLD 2017 Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD.
  • Global Initiative for Asthma. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Diagnosis of Diseases of Chronic Airflow Limitation : Asthma COPD and Asthma-COPD Overlap Syndrome(ACOS).

ACOの疫学

呼吸機能から閉塞性肺疾患と診断された症例を対象としたACOの有病率は、海外の研究では7.4~55.5%1-3)、日本における研究では15.4~20.7%4-6)と報告されています。喘息やCOPD症例を対象にした検討もなされていますが、いずれにおいてもACOの有病率には幅があります。

GINAとGOLDとの共同提言により「ACO」という名称は定まりましたが、喘息とCOPDから明確にACOを鑑別する基準は定まっていません。そのため、これまでに報告されているACOの疫学研究では、ACOの定義や対象の年齢、地域、試験デザインなどがさまざまで、一定の見解が得られたACOの有病率はいまだに明らかになっておらず、さらなるデータの蓄積が必要であると考えられています。

  • Fu JJ, et al. Respiration. 2014; 87(1): 63-74. PMID: 24029561
  • van Boven JF, et al. Chest. 2016; 149(4): 1011-1020. PMID: 26836892
  • Soriano JB, et al. Chest. 2003 ; 124(2): 474-481. PMID: 12907531
  • Kurashima K, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 479-487. PMID: 27019598
  • Kitaguchi Y, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 991-997. PMID: 27274220
  • Yamauchi Y, et al. Respirology. 2015; 20(6): 940-946. PMID: 25998444

ACOの特徴

国内外の研究において、ACOの患者は、喘息あるいはCOPDの患者に比べて下記のような特徴を有するとまとめられています1)

  • 臨床症状を認める頻度が高い
  • 増悪を起こしやすい
  • QOLが低い
  • 呼吸機能の低下が加速される
  • 死亡率が高い
  • 医療機関の利用頻度が多く、医療費が高い

ただし、ACOの臨床研究のほとんどが治療中の症例を対象とした研究であり、ACOの臨床的特徴を明らかにするには、ACOの診断基準を満たす未治療の症例を対象とした前向き試験が必要であると考えられます。

増悪頻度については、海外の横断研究ではCOPDと比較してACO増悪頻度が高いとの報告が多くなされていますが2-5)、差がないという報告もあります6)。また日本の研究では、COPDと比較したACOの増悪頻度に差がないという報告が複数なされています7-9)

  • 上田哲也. 月刊薬事. 2018; 60(12):2219-2224.
  • Menezes AMB, et al. Chest. 2014; 145(2): 297-304. PMID: 24114498
  • Hardin M, et al. Eur Respir J. 2014; 44(2): 341-350. PMID: 24876173
  • Miravitlles M, et al. Respir Med. 2013; 107(7): 1053-1060.  PMID: 23597591
  • Hardin M, et al. Respir Res. 2011; 12: 127. PMID: 21951550
  • Izquierdo-Alonso JL, et al. Respir Med. 2013; 107(5): 724-731.  PMID: 23419828
  • Suzuki M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2016; 194(11): 1358-1365.  PMID: 27224255
  • Inoue H, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017; 12: 1803-1810.  PMID: 28694693
  • Kobayashi S, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 2117-2123.  PMID: 27660429

ACOの診断

COPDと喘息の特徴を見いだし、ACOと診断するための工夫がこれまでに行われてきました。COPDに関しては、CTによる肺胞壁の破壊状況の検査や、肺拡散能検査が有用であることが知られています。また、喘息については、アトピー素因や、日本の喘息患者の60%以上が合併しているアレルギー性鼻炎の存在の確認に加え、気道の好酸球性炎症とよく相関する呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定などが診断手段として有望であると考えられています。

これらの検査は、日本においては十分に普及しているため、「日本のACO手引き」ではその状況を鑑み、下表のようなCOPDと喘息の特徴をあげ、ACOの診断の目安としています(表11)

表1 ACO診断の目安1)

基本的事項
40歳以上、慢性気流閉塞:気管支拡張薬吸入後1秒率(FEV1/FVC)が70%未満
【COPDの特徴】
1、2、3 の1項目
【喘息の特徴】
1、2、3 の2項目あるいは
1、2、3 のいずれか1項目と4の2項目以上
  • 1.喫煙歴(10pack-years以上)あるいは同程度の大気汚染曝露
  • 2.胸部CTにおける気腫性変化を示す低吸収領域の存在
  • 3.肺拡散能障害(%DLCO<80%あるいは %DLCO/VA<80%)
  • 1.変動性(日内、日々、季節)あるいは発作性の呼吸器症状(咳、痰、呼吸困難)
  • 2.40歳以前の喘息の既往
  • 3.呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)>35ppb
  • 4-1)通年性アレルギー性鼻炎の合併
  • -2)気道可逆性(FEV1>12% かつ >200mL の変化)
  • -3)末梢血好酸球 >5% あるいは >300/μL
  • -4)IgE高値(総IgE あるいは 通年性吸入抗原に対する特異的IgE)
  • 1.ACOの診断は、COPDの特徴の1項目+喘息の特徴の1、2、3の2項目あるいは1、2、3のいずれか1項目と4の2項目以上。
  • 2.COPDの特徴のみあてはまる場合はCOPD、喘息の特徴のみあてはまる場合は喘息(リモデリングのある)と診断する。
  • 3.ACOを診断する際に喘息の特徴を確定できない場合、喘息の特徴の有無について経過を追って観察することが重要である。
  • 4.通年性吸入抗原はハウスダスト、ダニ、カビ、動物の鱗屑、羽毛など、季節性吸入抗原は樹木花粉、植物花粉、雑草花粉など、である。
  • 【参考1】胸部単純X線などで識別を要する疾患(びまん性汎細気管支炎、先天性副鼻腔気管支症候群、閉塞性汎細気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、リンパ脈管筋腫症、うっ血性心不全、間質性肺疾患、肺癌)を否定する。
  • 【参考2】咳・痰・呼吸困難などの呼吸器症状は、喘息は変動性(日内、日々、季節)あるいは発作性、COPDは慢性・持続性である。
  • 日本呼吸器学会喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023作成委員会編, 喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023, 68-71, 日本呼吸器学会, メディカルレビュー社, 2024.

ACOの治療

ACOの治療方針と管理目標

ACO患者は喘息とCOPD両疾患の特徴を併せ持っているため、「日本のACO手引き」では、これら双方の管理目標を勘案し、ACOの管理目標を次のように定めています1)

ACOの管理目標

  • 1.症状およびQOLの改善
  • 2.呼吸機能障害の改善および気道炎症の制御
  • 3.運動耐容能・身体活動性の向上および維持
  • 4.呼吸機能の経年低下および疾患進行の抑制
  • 5.増悪の予防
  • 6.合併症・併存症の予防と治療
  • 7.生命予後の改善と健康寿命の延長
  • 8.治療薬による副作用の回避

これらを達成するために、ACOの病態を注意深く評価し、危険因子を回避しながら適切な長期管理を行っていくことが推奨されています。

ACOの治療

ACOの治療に関しては、COPDや喘息の臨床研究から除外されることが多く、これまでにACOを中心に検討された臨床研究が限られていることから、エビデンスが乏しい状況です。

そのため、現状では個々の患者の病態に合わせて喘息とCOPDの両者に対応する治療を行うことが基本です。喘息とCOPDのそれぞれの治療法に準じて、薬物療法を中心に環境整備や患者教育、呼吸リハビリテーション、ワクチンの接種、栄養療法、酸素療法、換気補助療法などによる、適切な長期管理に向けた包括的治療を実施します。ただし、ACOの臨床的特徴から、COPDや喘息と明確に区別した上で、長期的で適切な管理に向けて、よりACOに適した治療を明らかにしていくことが求められています。

こうしたことからも、ACOを明確に鑑別し、閉塞性肺疾患に対する適切な治療法を検討することが今後の研究課題と考えられています。

  • 日本呼吸器学会喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023作成委員会編, 喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き第2版 2023, 126-131, 日本呼吸器学会, メディカルレビュー社, 2024.
NP-JP-FVU-WCNT-1900082024年9月